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第2671回 古代のGPS



 ストロンチウムというと最近では原発事故の影響もあり、放射性同位体であるストロンチウム90が思い浮かび、土壌中の濃度などが気になったりもするのですが、本来のストロンチウムは広く地殻中に存在し、産業的にも幅広く利用されてきました。

 炎色反応が綺麗な赤である事から花火や発煙筒の炎の色を赤くする事に使われたり、最近では見掛けなくなってきたテレビやパソコンのモニターなどに使われていたブラウン管にも欠かせない素材となっています。馴染み深いフェライト磁石の磁性を発生させる素材としても使われていて、身の回りの意外なところにストロンチウムが使用されている事が判ります。

 世界中に広く分布しているストロンチウムですが、天然には84、86、87、88といった4種類の同位体が存在していて、その比率は地域によって微妙なばらつきがあるとされ、地域ごとの同位体比率を分析すれば場所を特定できるという地質学的GPSといった性質を持つ事が知られるようになってきています。

 デンマークのエクトウィズ付近で1921年に非常に保存状態の良い青銅器時代の女性の遺体が発掘され、日本ではそれほど存在を知られてはいませんが、地元のデンマークでは「エクトウィズ・ガール」として教科書にも登場する存在となっています。

 約3500年前に16~18歳の若さで亡くなった彼女はお洒落なブラウスとミニスカートを身に付けた状態で埋葬されていて、そんな彼女の各部位に含まれるストロンチウムの構成比を分析する事で生前の彼女の行動を知るという興味深い試みが行われていました。

 歯の表面のエナメル質は子供の頃にしか形成されない事から、エナメル質に含まれるストロンチウムの同位体比を調べる事で彼女の生まれ育った場所が判るとされ、彼女は埋葬地となったエクトウィズから800kmも離れたドイツの南西部で生まれた可能性が高いという分析結果が得られています。

 彼女が着ていた羊毛製の衣服の繊維からは、ドイツのシュバルツバルト地方のものである事が示唆され、毛髪や爪に蓄積されたストロンチウムからは彼女が亡くなる前の2年間にデンマークと生まれ故郷を2度も行き来していた事が判っています。

 青銅器時代というと今日のような移動手段を持たない事から、狭い地域内を移動する事なく生涯を終えるイメージがありますが、彼女は意外なほどグローバルな旅をする人だった事が伺えます。青銅器時代には旅人や客人をもてなす習慣が根付き始めたともいわれ、そうした習慣が彼女の旅を可能にしたのかもしれませんが、グローバル化とは現代だけのものではない事を3500年前の女性が物語ってくれているようにも思えます。


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