第3070回 美味しい作法



 最近では、納豆に関する東西の評価の違いはかなり差がなくなってきたように思えるのですが、かつては東日本では評価が高く、西日本では評価が低いとされていました。そんな中、熊本だけは西日本でも例外的に納豆好きな県民性とされ、子供の頃から普通に接していただけに、初めて納豆が嫌いという関西の方に出会った際はそれなりの衝撃を受けた事が思い出されます。

 馴染みのある食材というだけでなく、何かと納豆とは縁があり、納豆に含まれる酵素のナットウキナーゼの粉末や粘りの素となる成分、ポリグルタミン酸などに接する機会もあり、食べる以外の部分でも納豆に親近感を覚えてしまいます。中でも強力な生命力と繁殖力を持つ納豆菌を使い、生活排水によって汚染された池の水を浄化するというプロジェクトには驚かされながら、納豆菌に対し大きな興味を抱いてしまいました。

 食事で納豆が出されると最初に食べてしまうのですが、納豆菌は酸には弱い事から最初に食べてしまうと胃酸に直接触れてしまう事となり、活きたまま腸に届かないので良くないとされます。温かいご飯の上にのせるのもご飯の熱によって酵素のナットウキナーゼが失活してしまう事から、良くない事といわれます。

 納豆菌の強力な生命力と繁殖力を思うと、胃酸は強力な酸ではありますがポリグルタミン酸の粘りに守られている事もあり、食事の最初に食べたからといってすべての納豆菌が死滅してしまうとは思えず、わずかでも残った納豆菌は腸内に入って環境が整うと、増殖活動を再開して増えてくれる事と思えてきます。

 ナットウキナーゼはタンパク質である事から高温にさらされると変性して機能しなくなるのですが、50~60度で働きが弱まりはじめ、60度以上の温度で変性してしまうとされます。ご飯が炊きたてであればその温度に達している可能性はあるのですが、炊き上がってしばらく経ったものを茶碗によそう段階でかなり温度は下がってしまう事から、直接ご飯にのせたくらいではナットウキナーゼは失活しないという事ができ、あまり食べ方を意識する必要はないと思えてきます。

 混ぜ方に関しては、粘りが敬遠される事がある事から、あまり混ぜないという意見もあるのですが、混ぜる事によってポリグルタミン酸が発生したり、空気に触れたナットウキナーゼが活性化したりという事があるため、しっかりと混ぜた方が良いとされます。

 時計方向、反時計方向などの混ぜる方向や途中で逆回転させるといった事には意味がないとされ、一定の方向にしっかりと混ぜる事が大切となります。混ぜた方が良いからといって乱暴に混ぜたり、混ぜ過ぎてしまうと旨味成分のアミノ酸が崩れてしまうという意見もある事から、優しくしっかりというのが基本になるのかもしれません。あまり細かい事は気にせず、美味しくいただくというのが上手に付き合うコツとも思えてしまいます。


 

第3069回 表面カラフル

 

 以前、紫外線対策をしたいなら黄色い服を着るべきと教えられ、意外に思えた事があります。光を反射しやすい白か、吸収する黒ならともかく、黄色というのがとても納得いかないように思えて、少し考えてしまったのですが、光の三原色の事を思うと納得できる事と思えてきました。

 可視光線はいくつもの波長に分けられ、プリズムによって分光された虹の七色はそれぞれ固有の波長を持っていて、すべての波長を合わせた光の色が白となります。身の回りにあるすべての物質は光を受けて反射する際、一定の波長の光を吸収する性質を持っており、吸収されなかった波長の反射光を、私たちはその物の色として見ています。

 そのため青い光の波長を吸収する性質を持つ物質に光が当たった場合、白から青を除いた光が反射されて色として見える事から、私たちの目には黄色がその物質の色として映ります。紫外線は可視光線ではないのですが、青系の色を吸収する物質という事で、黄色い服が紫外線対策になるという理屈になります。

 最近、そうした物質の性質を応用したテクノロジーが公表されていて、金属の表面を塗装する事なく鮮やかな色で彩る事ができるというだけでなく、意外な分野への応用も期待されています。

 今回の技術を開発したのは理化学研究所でメタマテリアルの研究をしている田中拓男主任研究員で、アルミニウムの表面の微細な構造を変化させる事でさまざまな色を発色させる事ができるメタマテリアルシートの開発に成功しています。

 開発された構造体は、アルミニウムの基盤の上に一辺が数百ナノメートルという微細な無数の薄い四角形を並べたもので、四角形の一辺の長さや隣との間隔を変化させる事で吸収する光の波長を変え、反射光の色を変化させる事ができます。

 アルミニウムは表面がすぐに酸化されて腐食を防ぐ事から、塗料などのように色褪せたりする事もなく、半永久的に同じ色を発色し続ける事が可能とされ、塗装するよりも遥かに軽量に仕上げる事が可能ともいわれます。

 メタマテリアルシートの応用はカラフルで軽量、耐久性に優れた金属の表面加工に留まらず、ガンの検診という分野でも期待されています。最近の研究でガンは特有のにおいを持つ事が判ってきています。においの素は分子であり、分子は固有の赤外線を発している事から、得たマテリアルシートを使って人の呼気や汗からガンが発したにおいの素となる分子の赤外線を発見できれば、簡単な検査でガンを発見できる事になります。

 可視光線よりも波長が長い赤外線となると、アルミニウムよりも金の方が相性が良いため、金を使ってメタマテリアルシートを作る必要があるそうですが、金のシートは小さく、薄くても大丈夫で、繰り返し使える事から、実現すれば現在行われているどのガン検診よりも安価な検査となる事も予想されます。

 現在、田中研究員は2cm四方程度の大きさのシートを作成し、今後、5年間を掛けて検出できる分子の種類や分子の量などを見極めるとの事で、やがて医師が差し出したシートに息を吹き掛けるというのがガン検診の第一歩となるのかもしれません。

 「はい、息を吹き掛けてください」といわれると、飲酒運転の検問を思い出してしまいますが、飲酒の有無に併せてガン検診も行えるとしたらどこか不気味なものを感じてしまいます。


 

第3068回 クモへの恐怖(2)



 家の中は広い空間という事もあり、クモが入り込んできている事を見掛けても、それほど大きな反応をする事はないのですが、閉鎖空間の車の中となると、それなりの恐怖心を持ってしまい、同じような経験を持つ人も少なくはないと思っています。

 偶然、入り込んでしまったクモと人との悲劇という感じがしてしまうのですが、実はクモの側は偶然ではないかもしれないという怖ろしげな研究結果が発表されています。

 オーストラリアのクイーンズランドにある博物館でクモの研究をしているロバート・レイブン博士によると、クモはある種の振動によって理性を失い、振動の発生源へ向かって導かれていくという新たな生態がある事が発見されたという事で、振動はクモを扇動して普段備えている本能を見失わせ、あらゆる危険を物怖じともせずに突撃させてしまうといいます。

 事の起こりはレイブン博士が日常的に使っている年代物のディーゼルエンジンの4輪駆動車で、周囲の人たちからは何かに付け買い換えを薦められる事も多い長年の相棒が発端となっています。

 博士にいわせると最近のオフロード車は排ガス規制の影響もあって非力で、車全体が静かな事から車に乗っている気にならないため、好きになれないという事が相棒の現役期間を延長してきたのですが、ある日のフィールドワークの際、砂漠地帯で相棒のエンジンをかけると、普段であれば昼間には活動しない種類のクモが現れて、車に駆け込んできたそうで、しかも非常に混乱した様子だったといいます。

 レイブン博士によると、学校から帰った息子のリュックからクモが出てきて、大いに驚かされた母親が学校を相手取って訴訟を起こそうとしたケースが紹介されていて、4WDの車で息子を迎えに行き、授業が終わるまで駐車場で待っている間、アイドリング中の振動にクモが引き寄せられて車内へ入り込み、後にリュックに入ってしまった可能性が指摘されています。

 振動がどのようなメカニズムでクモを異常な行動に駆り立ててしまうのかについては、今後の研究を待つ事となりますが、かつて長年、ディーゼルエンジンの古い車に乗っていた身としては、とりあえず危険な種類のクモが棲息する地域でなくて良かったと胸を撫で下ろしてしまいます。


 

第3067回 クモへの恐怖(1)

 

自然豊かな日常を過ごしている事もあり、苦手な昆虫と出会ってしまう事も珍しくはないのですが、さすがに冬となると虫たちを見掛ける事もなくなり、一安心という気分になれます。

 そんな中、屋内は暖かいという事もあり、クモだけは年間を通して見掛けてしまうのですが、クモは昆虫ではないので例外なのかと思いつつ、やはり苦手なものを感じてしまいます。

 日本ではそれほど声高にいわれる事はないのですが、「アラクノフォビア」という言葉の存在が示すように、英語圏ではクモへの恐怖心は「クモ恐怖症」として一定の市民権を得てしまっています。

 クモという存在は、何がそんなに気持ち悪いのかと考えてしまうのですが、産毛が生えた様子や単眼が不気味な顔、不気味に動く8本の脚、膨らんだ腹部、虫を捕まえて食べるという生態、そのすべてが気持ち悪い対象となるように思えてくるのですが、クモへの恐怖について行われた研究では、細かく認識したパーツや後天的な知識、経験によるものではなく、本能からくるものだという事が判ってきています。

 生後6ヶ月のまだ物心も付かず、経験も知識も乏しい乳児にさまざまな画像を見せ、その際の乳児の瞳孔の様子を観察するという形で行われた研究では、花や魚などの画像を見せた時よりも明らかにクモと蛇の画像を見せた時の方が、明らかに瞳孔が大きく広がる事が観察され、潜在的な恐怖心を抱いている事が観察されています。

 同じ研究の中では熊やサイといった危険度の高い動物の画像も使われてはいますが、それらに対しては乳児はこれといった反応はせず、クモと蛇に対してのみ潜在的な恐怖が備わっているという結果が得られていました。

 クモと蛇に関しては、人類は4000万年とも6000万年ともいわれる長い時間を共に過ごしており、気付かないうちに住処に潜入され、毒によって危険な思いをし続けてきたという歴史が本能に刷り込まれてきたのかもしれないと、改めてクモへの恐怖心の根の深さを思ってしまいます。

 何かの役には立ってくれているのだろうと、家の中でクモを見掛けてもそのままにはしているのですが、出来る事なら出会う事なく過ごしていきたい同居人となっています。

 

第3066回 はしか対策



 記憶が定かではないためはっきりとは判らないのですが、新三種混合ワクチンの対象となる「はしか」、「おたふく風邪」、「風疹」には縁がなく、感染する事なく過ごせています。ワクチンが効いているのかとも思えるのですが、ワクチンを接種した記憶もない事から、無防備でありながら運よく無事に過ごせているのかもしれません。

 三種のウィルスはそれぞれ強力な感染力を持ち、飛沫感染、空気感染、接触感染と多彩な感染経路で体内に入り込んでくる事や、ワクチンによって免疫を獲得しても10年ほどで失われてしまい、ブースター効果と呼ばれる追加免疫の効果も得られない事から、子供の頃にワクチンを接種したとしても現在では感染の可能性がある事が考えられます。

 そんな三種のウィルスの中で、はしかの原因となる麻疹ウィルスが人に感染する際、細胞に侵入する役割を担う「Fタンパク質」と呼ばれる特殊なタンパク質の構造が解明され、根本的な治療に繋がる抗ウィルス薬の開発に繋がるとして期待されていました。

 研究に当たったのは九州大学大学院医学研究院の橋口隆生准教授をはじめとする研究チームで、麻疹ウィルスは表面にあるFタンパク質が細胞同士を結合させて人の細胞に侵入する事が知られていますが、研究チームはFタンパク質の構造を原子一つひとつまで映像化する事で構造の解明を行っています。

 また、細胞膜の融合を抑える働きのある2種の阻害剤を加えると、Fタンパク質の特定の部位に結合して感染が抑えられるメカニズムを解明し、Fタンパク質の標的とするべき部位を特定して阻害剤の改良による治療薬の開発へと繋げています。

 橋口准教授はFタンパク質の構造情報を一般に公開しており、その研究者も自由に使えるようにする事で確実により良い薬を開発できる環境を整えていて、今後、九州大学に限らず新たな治療薬が開発される可能性が高まってきています。

 はしかというと子供が罹る病気という感じがして、高い熱と発疹をイメージしてしまうのですが、大人でも感染する事があり、感染の数年後に亜急性硬化性全脳炎を発症すると死に至る事があります。2016年の統計では全世界で推定約9万人が感染によって亡くなっており、その怖さが伝わってきます。いち早い治療薬の登場を望んでしまいます。

 
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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
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